東京地方裁判所 平成9年(ワ)7729号 判決 1998年1月21日
原告
野中清秀
外一名
右二名訴訟代理人弁護士
末川吉勝
同
戸部秀博
被告
ユタカ企画こと沢田育久
右訴訟代理人弁護士
安岡清夫
主文
一 原告野中清秀の被告に対する別紙債権目録記載の金銭消費貸借契約に基づく合計金四〇〇〇万円の残元本債務及びこれについての原告生悦住むつ子の被告に対する連帯保証残債務は、いずれも金二二三三万九七五九円を超えて存在しないことを確認する。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、被告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 原告らの被告に対する別紙債権目録記載の金銭消費貸借契約に基づく合計金四〇〇〇万円の残元本債務は、金二一一六万七三〇七円を超えて存在しないことを確認する(なお、主張事実に照らせば、原告野中清秀が被告に対する貸金債務について、また、原告生悦住むつ子が被告に対する連帯保証債務について、それぞれ右金額を超えた部分の不存在確認を求めていると解される。)。
2 主文第二項と同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 被告は、原告野中清秀に対し、別紙債権目録記載の金銭消費貸借契約に基づく合計金四〇〇〇万円の貸付のうち、金三六五〇万円の残元本債権を有していると主張し、原告生悦住むつ子に対し、右貸付の連帯保証債権として同額の債権を有していると主張して
いる。
2 よって、原告らは、被告に対し、原告らの被告に対する右各債務はいずれも金二一一六万七三〇七円をこえて存在しないことの確認を求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1の事実は認める。
三 抗弁
1 被告は、原告野中に対し、別紙債権目録記載のとおり、合計金四〇〇〇万円を貸し付けた(本件消費貸借契約)。
2 原告生悦住は、前項の貸付の都度、被告との間で、原告生悦住が原告野中の被告に対する右債務を保証する旨約した。
四 抗弁に対する認否
すべて認める。
五 再抗弁
1 原告らは、被告に対し、別紙弁済表記載のとおり、抗弁1及び2の各債務につき、合計金二六六三万七〇〇〇円の弁済をした。
2 本件消費貸借契約の利息は、利息制限法一条に定められた制限利息割合である年一割五分を超える。
六 再抗弁に対する認否
すべて認める。
七 再々抗弁
1 被告は、登録番号東京都知事(一)第一〇六四八号、商号ユタカ企画で貸金業を営んでいる者である。
2 被告は、本件消費貸借を、貸金業者による事業遂行として行った。
3 原告らは、利息の支払と指定した上で、再抗弁1の弁済を行った。
4 被告は、原告野中に対し、本件消費貸借締結後、遅滞なく次の書面を交付した(ただし、標目に「(控)」と記載してあるものは、控ではなく原本を交付した。)。
(一) 平成六年七月一九日の貸付につき、別紙一ないし三の各書面
(二) 同月二二日の貸付につき、別紙四の書面
(三) 同年八月八日の貸付につき、別紙三及び四と同一書式の、元金二〇〇〇万円、利息、利率、受領金額等を記載した書面
(四) 平成七年八月二四日の貸付につき、別紙五ないし七の各書面
5 被告は、原告野中から、別紙債権表のとおり本件消費貸借の弁済を受ける都度、原告野中に対し、同表かっこ内記載の各書面を直ちに交付した(ただし、標目に「(控)」と記載してあるものは、控ではなく原本を交付した。また、別紙三、四及び七の交付の事実については、前項で主張済みである。)。
6 右弁済は、原告らの任意によるものである。
7 別紙三、四、七、九ないし一八、二〇の各領収書には、貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)が定める貸金業者の名称、氏名、住所、登録番号、受領年月日、貸付金額、利息の計算期間、利率、利息額等が記載されている。他方、返済方式、返済期間及び返済回数は、原則として利息前払期間終了日に一括返済とされていたため、これらの書面に記載されていないが、原告らの実情、希望により更新されていたものであり、また、原告らが一部返済をした場合には、残額につき更新されていたものであるから、記載がなくとも問題はないというべきである。
また、別紙二の連帯借用証書は、融資合意金額と実際の貸付額に日時的ずれがあったため、貸付予定額を記載した書面として原告らに交付されたもので、記載事項に不備はあるが、現実の融資額に合わせて、別紙三及び四の各領収書等が同時に交付されていたものであるから、これらの書面をもって、記載事項の不備を補うことができる。
以上のとおりであるから、被告が交付した前記書類全体を併せ判断すれば、貸金業法の規定する書面が交付されていると認められるので、原告らによる右弁済は、貸金業法四三条一項により「有効な利息の債務の弁済」とみなされるものであり、利息制限法一条一項の制限利息を超える部分は、元本に充当されるものではない。
八 再々抗弁に対する認否
1 再々抗弁1及び2の各事実は認める。
2 同3の事実は明らかに争わない。
3 同4のうち、被告が、原告野中に対し、平成六年七月一九日の貸付の際に別紙二の書面を、同年八月二四日の貸付の際に別紙六の書面をそれぞれ交付したことは認め、その余の事実は明らかに争わない。
4 同5及び6の各事実は明らかに争わない。
5 同7の主張は争う。貸金業者が貸金業法四三条の適用を受けるためには、同法一七条一項に定める各記載事項のすべてを記載した書面を貸付の相手方に交付することを要するというべきであるから、被告が原告野中に対して交付した前記書面は、同法一七条一項の書面に該当しない。
第三 証拠
一 原告
乙号証の成立は、すべて認める。
二 被告
乙第一ないし第一四号証、第一五号証の一ないし三、第一六号証の一ないし四、第一七ないし第三二号証、第三三号証の一ないし五、第三四号証の一ないし三、第三五号証
理由
一 請求原因、抗弁及び再抗弁について
請求原因事実、抗弁事実及び再抗弁事実は、すべて当事者間に争いがない。
二 再々抗弁について
1(一) 再々抗弁1及び2の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。
(二) 同3の事実は、原告らにおいて明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。
(三) 同4のうち、被告が原告野中に対し、平成六年七月一九日の貸付の際に別紙二の書面を、同年八月二四日の貸付の際に別紙六の書面をそれぞれ交付したことは、当事者間に争いがない。その余の事実は、原告らにおいて明らかに争わないから、これらを自白したものとみなす。
(四) 同5及び6の各事実は、原告らにおいて明らかに争わないから、これらを自白したものとみなす。
2(一) 被告は、再々抗弁事実により、再抗弁1の弁済については貸金業法四三条一項の適用がある旨主張するのに対し、原告らは、再々抗弁事実によっては、右弁済については同条の適用がない旨反論する。
結局のところ、当事者双方の法的意見の対立点は、再々抗弁4(一)ないし(四)の各書面の交付をもって、同法四三条一項の適用要件である、同法一七条一項に定める書面の交付があったと言えるかどうかにあるので、この点について検討する。
(二) 貸金業者が貸金業法四三条一項の適用を受けるためには、相手方に対し、同法一七条一項に規定する各記載事項のすべてを記載した書面を交付する必要があり、しかも、一通の書面において右記載事項のすべてが記載されていなければならず、他の書面によって記載漏れの事項を補ったり、書面外の事情をもって記載漏れの事項を補うことは、許されないと解すべきである。なぜなら、次の各理由から、同法の解釈に当たっては、厳格な態度が要請されるからである。
(1) 同法四三条は、資金需要者等の弁済者の利益保護実現の立場から記載事項を法定したものであるところ(同法一条参照)、同法は、四九条三項により右法定記載事項(省令記載事項を含む。)を記載しなかった貸主に対しては刑事罰を科するという厳格な態度をとっている。
(2) 同法は、一七条一項の記載事項につき何らの除外事由を定めていない。
(3) 同法四三条一項は本来利息制限法上無効な弁済につき、貸金業法の定める厳格な要件を満たした書面を交付している優良な貸金業者に対してのみ、例外的に有効な弁済と認めるとの特典を与えたものである。
(4) 同法一七条一項に定める事項は多岐にわたるとはいえ、貸金業者であれば、これらの記載は容易にできるものであるから、同項につき厳格な解釈論を採用しても、貸金業者に酷とは言い難い。
(三) 本件の場合、被告が原告野中に対して交付した書面は、次のとおり、記載事項に欠けるところがあるから、同法四三条一項一号、一七条一項にいう書面には該当しないというべきである。
(1) 平成六年七月一九日の貸付の際に被告が交付した別紙二の連帯借用証書には、同法一七条一項に定められた、貸金業者の住所、契約年月日、貸付の利率、返済の方式並びに返済期間及び返済回数の記載がない。そして、同時に交付された別紙一及び三の各書面も、右記載事項のすべてを記載したものではない。
(2) 平成六年七月二二日貸付の際に被告が交付した別紙四の領収書は、受取証書としての体裁を有しているだけであって、これが貸金業法一七条一項に定める事項の大半について記載がない。そして、同年八月八日の貸付の際に被告が交付した書面も、別紙三及び四と同一の書式の書面である以上、全く同様の問題がある。
(3) 平成七年八月二四日の貸付の際に被告が交付した別紙六の連帯借用証書には、同項に定められた、貸金業者の氏名及び住所、貸付の利率(実質年率)、返済の方式並びに返済期間及び返済回数の記載がない。そして、同時に交付された別紙五及び七の各書面も、右記載事項のすべてを記載したものでない。
(四) したがって、抗弁1の各貸付の際に交付された書面は、いずれも貸金業法一七条一項の書面に該当しないので、再抗弁1の弁済については同法四三条一項の適用はないと解するのが相当である。
3 以上によれば、被告の再々抗弁は、主張自体失当である(なお、再々抗弁5の受取証書交付についても右同様の問題がある。)。その結果、原告らが任意に利息として支払った金銭中、利息制限法の制限を超える部分は、当然に残存元本に充当されることになる。
4 ところで、本件支払につき、利息制限法一条一項の制限利率(年一割五分)にしたがって各貸付金の利息を計算し、当該利息にこれらを充当し、当該利息をこえる部分を過払利息として順次各貸付金の元本にそれぞれ充当していくと、別紙計算書のとおりの結果となる。
三 結論
以上の事実によれば、原告らの本訴請求は、原告野中の被告に対する別紙債権目録記載の金銭消費貸借契約に基づく合計金四〇〇〇万円の残元本債務及びこれについての原告生悦住むつ子の被告に対する連帯保証残債務は、いずれも金二二三三万九七五九円を超えて存在しないことを確認するという限度において理由があるからこれらを認容し、その余は失当であるからこれらを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六四条ただし書(原告各自の敗訴部分の割合が少ないことによる。)を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官柴﨑哲夫)